第14回金賞
金賞:ユトリ様
エピソード内容
「口で言っても聞かないなら手を貸すことですよ」
警察官はそう言った。79になる父のことで相談に行った時のことだった。娘としては免許返納をしてほしい。だって事故の加害者にも被害者にもなってほしくないから。だけど何度言っても父には伝わらない。伝わらないどころか耳も貸さない。そんな父にどうしていいかわからず、警察に相談した。すると最近同じような相談がものすごく多く寄せられていると言う。だけど警官は言った。
「問題はね、皆さんが返せ返せって小姑みたいに口うるさく言うことですよ」
「えっ、じゃあ言わないでどうしたらいいんですか」
「一緒にやるんですよ。運転だけじゃなくて、買い物も通院もレジャーも、一緒にやるんですよ」
私はハッとした。そう言えば私は父に対して言葉でずっと責め立てていた。口ばかり動かして、手を動かすことがなかった。父の代わりにハンドルを握ることも、父のために荷物を持つこともしなかった。それでは当然、父の心が動くわけがなかった。ああ、悪いことをしたな。私は下を向いた。それ以降「免許を返せ」とは言わなくなった。だけど私たちは父を助けるようになった。高齢者は運転以外にも実は不便を感じていることが沢山ある。それを解消する中で自然と車を持たなくても生活できるようになっていった。こうして安心と安全を手にいれた私たち。ハンドルを持っていた父の手は、いま、孫のオムツ換えに忙しい。
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