第9回銀賞
銀賞:見澤 禎夫様
エピソード内容
一人娘の受験が今月八日にあった。大学まではバスと電車で三時間はかかる。バスだって一日に四本しかない。ひとつ逃したらおしまいである。最近は霜が降り、路面も凍っている。私は会社を休んで送り迎えをすることにした。当日、助手席の娘は熱心に単語帳を開いている。車を走らすこと30分。最初の山道でハンドルをとられた。「おおっ、すべった」つい大きな声をあげると娘がにらんだ。いけない。すべるとは、娘の前では禁句であった。さらに車を走らすと今度はナビがおかしなことになった。古いナビのせいか、現在海の上を走行している。慌ててGoogleでドライブアプリを起動した。しかしこちらも言うことを聞かない。「なんかすぐ落ちるんだよなぁ」また口が悪さをした。娘はいっそう不機嫌になった。やっとのことでガソリンスタンドに入った。店員が「タイヤの滑り止めお持ちですか」と聞く。「え、チェーンもないし」すると店員が「滑り止めないと今年はキツいっすよ」と言った。
これが娘の勘にさわった。娘の受験に滑り止めがないのだ。つまり落ちたら浪人。それだけに本人のプレッシャーは計り知れないものだった。こうしてヒビが入った親子関係は修復することなく、受験校に着いた。「ありがとう」も言わずに娘は車を降りた。ふと校門で掃除をする業者が見えた。その瞬間思わず娘に「おいっ、滑るなよ」と言ってしまった。その日の帰り、娘は五時間かけて帰宅した。俺はギャグ言っても滑りそうで何も言えなかった。ただ来月の発表を固唾を飲んで見守るのであった。
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