第9回応募27
直人 和也様
エピソード内容
年末年始を河口湖で。ゆっくり過ごそう。
その年は、妻と小学生の息子二人をクルマに乗せて押し迫った中、中央高速を走りました。
冬の装備も万全。河口湖が想像以上の豪雪エリアである事も十分承知。
もし積雪がひどくなっても3~4日、宿泊のリゾートマンションにこもって全然平気なおせち料理、食料その他、準備万端です。
帰りは1月4日を予定して、ほんとに冬ごもりの気分でした。
予想通り、年が開けても雪景色で、河口湖リゾートを満喫していました。
クルマを運転する事もなく安心の冬休み。
でしたが。
4年生の長男が、急に思い出したように言います。
「帰ったらすぐお習字の提出がある」
「そんなの家に帰ってすぐやりなさい」
「ダメだよ、すぐになんかできない」
結局、河口湖にいる間に書こうという事になりました。
しかし!
お習字の道具くらいはなんとか買い揃えましたが、お習字の紙、それも普通サイズではなく、縦に長いお習字用紙を売っている店が見つかりません。
ネットで調べても付近の店舗は皆、正月休み。
でもなんとかという事で家内と長男を乗せて雪の中、河口湖からバイパスをひた走ります。
避けたかった雪道、しっかりとしたあてもなく。
後席の息子は、車内で曲を流してボーカルと合唱。ご機嫌ですが、何件かみせを探し出して尋ねても、普通の用紙しかありません。
やがて暗くなって吹雪です。
フロントガラスを掃くワイパーの速度を上げて、知らない脇道を走る。
もう帰ろうか、そう思うのですができないつらさ。
妻がマンションの管理人の方に連絡をとりましたら、マンション近くにお習字の教師をやっておられる先生がいるとの情報が。
慎重にクルマを走らせて元来た道を走ります。
スタッドレスタイヤが雪をかき、踏みしめる走行音。
暗い中、ライトが映し出す限定された世界を白い雪が斜めに走ります。
たどり着いた民家。
年配の女性が出てきて、事情を話して用紙をわけていただきました。
お金はいらないから、しっかりお習字を書きなさいと言われて、息子は頷いていました。
そこからマンションまでは、クルマでほんの4分程度の距離。
戻ったら管理人さんが寒い中、笑顔で迎えてくれました。
疲れはありましたが、なんだか自宅に帰って来たみたいな気分で、それからの熱燗が旨いといったらありませんでした。
息子のお習字の出来ばえは?
彼は左利きだとだけ言っておきましょう。
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