第5回銀賞
銀賞:浜野風鈴様
エピソード内容
夏休み。田舎の都合で母と妹が列車で先に帰省し、父の運転で、小学生だった私は少し遅れて父と二人で田舎に帰省することになりました。
しかし高速道路を走っていて、渋滞につかまりました。私は正直とても困りました。
なぜなら普段、滅多に父の運転する車に父と二人で乗ったことがなかったからです。
それには訳がありました。
それは父は非常に無口な人物で父と二人でいると父はムスッといつも黙っているのでその空間が苦手だったのです。
そして案の定、渋滞時の車の中でも父はムスッと黙っていました。私はとても後悔しました。
『本でも持って来ていれば良かったな』
しかし今更後悔しても仕方がない状況となりとにかく渋滞が早く解消されたらなあと祈る気持ちで窓の外を眺めていた時のことでした。
普段は滅多に私に話し掛けて来ない父がボソボソと私に話し掛けて来たのです。
会話の内容はたわいないものでした。「勉強頑張っているか?」「友達と上手くいっているのか?」「クラスには馴染んでいるのか?」等々。
どこの家庭でもなされるありふれた会話。しかし私にとっては父が私に興味を持っていてくれたことが新鮮でとても嬉しかったのです。
そこで私も普段父に聞けないようなことを色々と尋ねてみました。仕事のこと、父の趣味の釣りのこと、母と出会った頃のこと等。
父は照れ臭そうに、しかし嫌な顔せず色々と話してくれました。そう、この渋滞が切っ掛けで、それ以降の私と父との会話は増えて行ったのです。
だからこの夏休みの渋滞は私にとって特別な渋滞となりました。
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